バイクプラスができる前のお話

こんにちは。

いきなりですが、小売業やサービス業のお店で働きたいと思っている方は「お客様にとって自分はこういう存在でありたい!」という想いを持っている方も多いのではないでしょうか?

どうせ働くのならそういう「理想像」が一致する環境で、楽しく伸び伸びと働きたいものですよね? ということで「バイクプラスがどんなお店(職場)なのか?」に繋がるお話を綴らせていただきます。

バイクプラスが産声をあげる何年も前のことですが、ご興味のある方はお付き合いいただければ。

自転車屋で働き始めて感じた不安

かれこれ趣味で自転車を30年以上、仕事にしてからも20年以上になります。

中学生でしたのでお金もなく消耗品の交換や整備などは自分でやるしかなかったため、自転車いじりに関しては仕事に就く前から素人なりに自信はありました。

しかしながら実際働き始めると、自分が提供している技術サービスに自信はありつつも独学であることに疑問や不安を感じる日々が続きました。

整備士資格も取得し一定の技術レベルをもちろん有してはいましたが、お客様の自転車を触る以上、「経験と勘」だけが頼りの「独りよがりの技術」でなく、「正しい判断基準」や「納得できる根拠」を論理的に学習する必要性を感じていました。

独学だけでは「信頼性」と「説得力」に欠けるのではと思っていたのです。

「なぜ調子が狂ったのか?」「壊れた原因はどこにあったのか?」「まだ使えそうだけどなぜこのパーツは今交換が必要なのか?」自分の経験以外にもお客様に納得いただける「裏付け」がどうしても欲しかったのです。

因果関係などの込み入った話をしっかりとお伝えするコミュニケーションこそが、メカニックサービスを提供する者として、メカに詳しくない多くの一般サイクリストの皆さまの「満足」や「安心」に繋がるに違いないと感じていたのもありました。

残念なことに、1990年代後半の日本にそのようなことを学べる場所や書物も存在していなかったのです。

私と同じように、素人なりに腕には自信があり趣味の延長でショップで働くことになった多くの自転車店スタッフが実は、「独学による技術」「独学による技術の伝聞による技術」「正確には正しいかどうかもはっきりしていない曖昧な判断基準」しか持てていない時代だったのです。

そんな中転機が訪れました。

拠り所になる技術指南書との出会い

2000年に入社した米国系アウトドア専門店の日本一号店で今まで見たこともない情報量のメンテナンス本に出会いました。それがこの「Barnett’s Manual: Analysis and Procedures for Bicycle Mechanics(以下バーネットマニュアル)」。

バーネットマニュアル

メカニックに必要な情報が網羅された通称バーネットマニュアル。

コロラドにあるメカニック学校の整備マニュアルなのですが、ページ数と内容以上に驚いたのが、そのマニュアルを基にした体系だった「組立・メカニック研修」。

当時はまだ、整備技術は誰かが教えてくれるものではなく、趣味として突き詰めた結果自分で習得していくものという時代でしたので、学校が存在することにもとても驚きました。近いうちにその学校に行きたいと思うようになりました。研修が終わってからというものマニュアルをアメリカから取り寄せて辞書を片手にコツコツと読み解く日々が続きました。

そのマニュアルには、当時国内で販売されていた雑誌やメンテナンス本でよく目にしていたことが実は間違っていたという衝撃的な内容もありました。その理由もしっかりと説明されておりとても納得がいきました。

トライアンドエラーを繰り返しながら経験的に身につけていかなければならないある作業も、計測と計算をすることでより速くより正確に完了できると知り衝撃でした。「正しい判断基準」を持つには、「経験」や「勘」ではなく、「検証」と「観察」、特に「計測」を怠らないことが大切であることを学びました。

ちなみに現在このマニュアルは、新しいパーツや技術情報を継続して追加していて14000ページもあるマニュアルに成長しています。

ご存知ない方がほとんどかと思いますので、もう少しだけバーネットについてご紹介しておきます。

バーネットとは?

卒業生分布図

こちらはアメリカ国内の卒業生分布。多くの卒業生がショップ等でメカニックとして働いています。

バーネットは、日本の職業訓練校的な機関としてコロラド州に認可を受けているスポーツ自転車メカニック養成学校で、アメリカ大陸だけでなくヨーロッパやアジア各国からも多くのメカニックが学びにやってきています。

卒業する日に地図上の出身地に針を刺すがの一つの儀式になっています。こちらはアメリカの地図ですが、この他に世界地図もあり、ヨーロッパ各国やオーストラリア、韓国などからも多い印象です。

創設者のジョンバーネットさんは、私が生まれる前の1973年頃から自転車業界で働き始めました。

ジョンバーネットさん

創設者のジョンバーネットさん。

ショップメカニックやサービスマネージャー、レースメカニックなどの経験を活かし、独立した自転車メカニック養成学校としては世界的に初めての例ともいえる「バーネットバイシクルインスティチュート」を1980年頃に創設しました。

他には、自転車専門工具メーカーと工具を共同開発したり、業界誌などにコラムを執筆していたりします。自転車いじりに関する著書も豊富です。

おそらく現役のメカニック指導者として最も長いキャリアの持ち主ではないでしょうか。そんな方に直接指導を受けるチャンスが数年後にやってくるのです。

紆余曲折を経ることにはなりますが・・・

突然の失業

バーネットマニュアルに出会え体系だった技術トレーニングを実践していたお店は、鳴り物入りでオープンしたにも関わらず2001年末には日本から撤退。

志半ばで「失業」しました。

留学の他にも色々とやってみたいことがあったにも関わらず未達に終わり悔しい思いをしました。

ところがです・・・

ピンチを乗り越え留学が現実に

有り難いことに運よくそのお店を引き継いだ会社に私たちは拾われたのです。やりたかったことを色々と我武者羅にカタチにして行きました。

例えば、「何百万もするクルマが試乗してから購入できるのにどうして何十万の自転車は試乗したりまたがったりしてから買えないのか?」という疑問から生まれた試乗会や、「商売道具でもある自転車整備技術を一般の方に教えるなんてどうかしている、やめてくれ」という反応の多かったビギナー向けのメンテナンス講習会など。

今では各地で開催されていますが、当時としては斬新な取り組みでした。前の会社でやらずじまいだった自転車販売店としての新しい顧客価値の提供にとにかく力を入れました。

そんな中、ついに仕事としてコロラド行きの許可がおりたのです。

バーネットの授業風景

バーネットの教室での授業風景。

お仕事ですので当然結果が求められることではありますが、自分の成長にも会社の成長にも繋がるような「やりたい事」はどんどんと会社にアピールしてみるものです。

日本人初の!!

最高レベルのメカニックに与えられる称号「マスターメカニック3.0」に合格

学校では2年間のフルタイムメカニック経験を有するなどの受験資格がある者のみ、2日間にわたる筆記と実技からなる認定メカニック試験を受験することができます。

テストの結果、60%以上の点数を取ったものは合格となり、合格した者はさらに取得点数により5段階のレベルに分けられます。下から「テクニシャン 1.0」「テクニシャン 2.0」「エキスパートメカニック 1.0」「エリートメカニック 2.0」そして最上位が「マスターメカニック 3.0」となります。

私は前職でバーネット流のトレーニングを受け、バーネット流の「計測」や「検証」を大事にする作業を経験していたこともあり、筆記試験も実技試験も満点に近い高得点でテストを終え、「マスターメカニック 3.0」に認定されました。

留学の反響は想像以上

テック技術を学べる学校が日本に存在しなかったこともあり、留学の様子はサイクルスポーツ2004年04月号に大きく紹介されました。これが当時の記事になります。

 

この年から、初心者や普通にサイクリングを楽しんでいる人々の満足や安心につながればという想いで、初心者向けメンテナンスの雑誌連載をしたり、初心者向けのメンテナンスDVDに出演したりなど、多くのことを経験させてもらいました。

私が当時お客様向けに開催していた講習会には同業の方も参加しにきたこともありました。この記事をきっかけとした出来事で思い出に残っていることが2つあります。

1つは、老舗有名ショップで働いていた人物が辞めて私を求めて働きにきたことです。

申し分ない技術を持ちながらも「何を判断基準にもてばいいんだ?」「正解ってなんなんだ?」と、バーネットを知る前に抱えていた悩みと同じ悩みを持つ人物がそのショップを辞めて「ここならその答えが見つかるかもしれない」「ここなら顧客に寄り添うサービスを提供できるかもしれない」と働きに来たのです。

同じ想いや悩みを抱えていた人物が有名店にもいたことがとても嬉しかったのを覚えています。

2つ目ですが、当時は国内でスポーツバイクメカニック養成講座を作ろうという動きがようやく始まったばかりで、その立ち上げに携わっていた業界の先輩方が感心を示してくださり、立ち上げに向けた動きにちょっとだけ関わらせていただけたことです。

納得のできる技術サービスを提供したいと思っているひとが他にもいたこと、次世代のために学ぶ場を作ろうと思っているプロが日本にもいたことは刺激的でした。

今も大事にしていること

バーネットの存在を知った職場である外資系アウトドアショップは、テック研修に限らず国内のスポーツバイク専門店(いわゆるプロショップ)とは全く異なる当時の日本では見たこともない新鮮なスタイルのお店でした。

設備が整った広いテックエリアを有するお店はおそらく日本初だったのではないでしょうか。方々の自転車屋さんやアウトドアショップの方々が視察に訪れるほど話題のお店でした。

留学の際にボルダーやコロラドスプリングスで立ち寄ったショップも、視察で訪れたポートランドやシカゴなどのショップも同じようなスタイルでしたが、整備技術の面だけでなく、作業環境設備、サービスのスタンス、接客に至るまであらゆる側面で「顧客志向」と「スタッフ志向」が徹底されていました。

私たちが創業以前から大切にし続けている「ショップの在り方」には、「お客様志向」と「スタッフ志向」を軸に「自転車屋ってこれでいいのか?」「地域マーケットで信頼を得るにはどうしたら良いのか?」という不安や疑問からから学んできたものが詰まっています。これからもずっと「信頼され続けるお店」の理想のカタチを求めて精進して行きたいものです。

最後に就活中の皆様にメッセージ

多くの若手メカニックにトレーニングを行ってきて思うことが2つあります。1つ目は、自転車を楽しんでいる人ほど探究心が強くグングンと上達していくこと。そして2つ目は、人に教わったことよりも「体験」から学んだことの方がはるかにチカラになるということ。

もしご縁があって一緒に働くことになったら、教わったことそ自分のモノにするのはもちろんですが、ただ教えてもらえるのを待つのではなく、「ひとりの自転車好き」として探究心を持って主体的にシゴトを楽しみながらスキルアップに励んでいただきたいと思っております。それではご応募お待ちしております!

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